ネタバレあり感想・考察『八月のクリスマス』:穏やかな描写が切なさを引き立てる、最高の純愛映画

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こんにちは、Masashiです。

今回は、韓国映画『八月のクリスマス』についてお話しします。

実は本作、私が大学生になってすぐに韓国語の授業で見た映画でして。私が韓国映画好きになったのはこの映画がきっかけといっても過言ではありません。

個人的に思い入れの強い、大好きな映画です。

1998年に韓国で公開され、1999年には日本でも公開されました。

本作は、余命わずかな男性が出会った女性との日々を、淡々と、穏やかに描いています。

過剰な演出も、派手なセリフもありません。

だからこそ胸に響く、切ない純愛物語。必見です。

合計5回ほど見ているんですが、見れば見るほど主人公ジョンウォンの役はこのハン・ソッキュ以外考えられませんね。

地味な見た目なんですが、演技力はもちろんのこと、何といっても声がいい。柔らかく、穏やかで、包み込まれるような響きなんですね。それがこの映画には必要不可欠な要素なんです。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含むレビュー・考察記事ですので、
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

最後までご覧いただければ幸いです。

もくじ

映画『八月のクリスマス』

あらすじ

小さな写真館を営む青年ジョンウォンは、難病で余命わずかな毎日を穏やかに過ごしていた。ある日、写真の現像を頼みにやってきた女性タリム。歳の離れたタリムは、ジョンウォンを「おじさん」と呼び、何かにつけて店を訪れるようになる。他愛のない日々の中、ふたりは次第に心惹かれ合うようになるが、ジョンウォンの病状は悪化していく…。

キャスト

  • ユ・ジョンウォン役:ハン・ソッキュ
  • キム・タリム役:シム・ウナ
  • ジョンウォンの父:シン・グ

タイトルに込められた意味とは

本作タイトルの『八月のクリスマス』にはどういった意味が込められているのでしょうか。
ホ・ジノ監督の記事によると以下の通りです。

「この映画を作る時に私は悲しみと笑いのぶつかり合った時の物語を描こうと思いました。そして、もう一つは時間に関する概念、時間が変化していく、そういった事も表わせるような題名をつけたいと思いました。韓国は四季のある国なのですが、「8月」の夏、「クリスマス」の冬、この2つの単語がぶつかり合った時に醸し出される雰囲気が非常にいいと思いましたので、この題名を付けました。」
出典元:シネマコリア様「『8月のクリスマス』ホ・ジノ監督インタビュー」内より抜粋

我々は日常の中で喜怒哀楽、さまざまな感情がぶつかり合いながら過ごしていますよね。

「余命」という逃れられない運命に対する悲しみと怒り。それでも残りの命を楽しく過ごしたい。
ジョンウォンの純朴で穏やかな人柄を表しているタイトルだと感じます。

『八月のクリスマス』レビュー・考察

ここからは作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察ですので、作品を未鑑賞の方はお気をつけください。また、以下はあくまで個人的な考察です。ご自身の解釈と異なる場合はご容赦ください。

「なんかあっさり終わって物足りない」というあなた、それはホ・ジノ監督が我々観客に与えてくれた余白だ

前述の通り大学の授業で初めて見た時に、余韻に浸っていると、近くにいた他学生が友人同士話していました。どうやら、あまり面白くなかった様子で…。

近くにいた学生「なんかアッサリ終わったなぁ…」

余韻に浸りまくっていた私は、驚きました。
「え、すごく良かったのに…」とモヤモヤし、どこがダメだったんだろうと自分の中で考えてみたのですが…。

「彼は単に、しっかり観ていなかったのだろう」という結論に至りました。

本作はセリフが比較的少なく、キャラクターの表情や風景、日常の音に語らせる部分が多いです。

あえて無言のシーンを多く取り入れ、不要な説明は省き、最低限の心情描写のみ主人公の独白で補う。

例えば、ジョンウォンが入院し、タリムが何度訪れてもジョンウォンに会えないシーンで、タリムは、ジョンウォンがいつも乗っているバイクの音に反応しています。

また、夜中に自らの死を予見し咽び泣くジョンウォンに声をかけようとしてやめる父親の葛藤。

セリフがないのですが、各役者の表情や仕草で語っています。
2回、3回と見ているうちに、そういった細部まで解釈を深めることができます。

むやみやたらに説明するのではない。直接的な表現はせず、観客にいろんな感情を引き起こさせる。

ホ・ジノ監督は、我々観客に余白を与えてくれているのだなぁと。

それこそが本作が名作とされる所以の一つではないかと考えます。

あの時つまらなさそうにしていた彼、この名作を本腰を入れてもう一度見てくれないかなぁ…なんて回想します。

“伝えないことを決めた” ガラスの対比

入院中であることを知らず、何も言わず会えなくなったことに怒り、写真館のガラスを割ってしまうタリム。
一方、退院したにもかかわらず、喫茶店の中からタリムをガラス越しに見つめるジョンウォン。

ここではガラスは、物理的に2人を隔てるだけでなく、心理的な隔たりのメタファーではないかと思います。

タリムは、2人の間にある隔たりを壊そうとしました。にもかかわらず、ジョンウォンは自ら隔たりを作り、会うこともせず、想いを自身の中だけに留めます。

もし真実を言ってしまえば、タリムを悲しませることになる。タリムのために、自らの想いも手紙も封印する。窓越しにタリムを撫でるジョンウォンの表情のあまりの切なさときたら…

ラストシーンの余白

ジョンウォンは最後までタリムに何一つ伝えないという選択をし、この世を去りました。
タリムは、写真館に自分の写真が飾られているのを見て微笑み、立ち去ります。

タリムはジョンウォンの死を知ったのか?という疑問が残りますが、どちらともとれると思います。
ジョンウォンのお父さんが写真館に出入りしているようですし、タリムは尋ねて真実を知ったのかもしれません。
あるいは入れ違いで、最後まで知らないままだったのかもしれません。
いずれにせよ、タリムの前から去ったジョンウォンという男のことを、タリムはどのように心に刻むのでしょうか

人によってもさまざまな解釈ができます。

重複しますが、これも余白の部分と言えるでしょう。

おそらく我々観客だけが知っているジョンウォンの手紙。

温かくも、切ないラストでした。

ソッキュ兄さん、さすがです

ジョンウォンを演じたとんでもなく演技派の俳優・ハン・ソッキュは韓国を代表する名優です。
『八月のクリスマス』の翌年に公開された『シュリ』でも主役を務め、興行的にも大ヒット。韓国諜報員と北朝鮮工作員との悲恋を描いた本作も必見です。

こういう、イケメンではないですが実力派の俳優さん、好きな方多いんじゃないでしょうか(僕もその1人です…!)。

シュリでの鬼気迫る演技とは対照的に、これでもかと穏やかなキャラクターの本作。やはり名俳優と呼ばれるだけあって演技の幅が広い…
最近はあまりヒット作に恵まれないようですが、『パラサイト』のソン・ガンホように日本でもその名を再び轟かせてほしいものです。

おわりに

いかがだったでしょうか。
見た後に独特の余韻に浸る本作『八月のクリスマス』、ぜひご覧になってください。

2021年7月9日現在、Amazon Prime Videoで無料配信(字幕版&吹替版)してますので良かったらご視聴してみてください。
(個人的にこの映画はソッキュ兄さんの声が大きな要素だと思ってるので、字幕版が圧倒的オススメです!)

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も様々な映画紹介・レビューをしていきますので良かったらまたご覧ください。