感想・考察『海にかかる霧』:極限状態の人間を描く、実話がモデルの船上サスペンス

サスペンス 映画レビュー

こんにちは、Masashiです。

今回は、2014年に韓国で公開された映画『海にかかる霧』:原題『해무』についてお話しします。
日本でも翌年2015年に公開されました。

東方神起・JYPの元メンバーであるパク・ユチョンの映画デビュー作でもあり、K-POPファンの方はご存知の映画ではないでしょうか。
また、キム・ユンソクが無骨な船長役を務めており、韓国実力派俳優ファンの方はテンションが上がる部分かと思います。

本作はアカデミー賞受賞作品『パラサイト』の監督、ポン・ジュノがプロデュース。
>>ポン・ジュノ監督のデビュー作品『ほえる犬は噛まない』についての記事はこちら

ポン・ジュノ監督作品『殺人の追憶』などで脚本を務めたシム・ソンボ監督のデビュー作品です。

実話をモデルにし、海上の船で起こる極限の人間の心理描写・予想もできない展開が魅力的な本作。

『海にかかる霧』について詳しくお話しします。

本記事はネタバレになるような内容を含むレビュー・考察記事ですので、
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

最後までご覧いただければ幸いです。

もくじ

『海にかかる霧』

あらすじ

漁船チョンジン号の船長チョルジュは、不漁続きで船の修理すらままならない。

信頼してくれている5人の乗組員の生活を守るためにも、なんとしても金を工面しなければならない。

チョルジュは、中国からの朝鮮族の密航の手伝いをすることで金を工面することを決断する。

乗組員の中には納得していない者もいたが、密航決行の日を迎える。

海上は荒れ模様で、中国船から密航者をチョンジン号に乗り移す最中、密航者の中の女性ホンメが海に転落する。

チョンジン号のドンシクはとっさに海に飛び込み、ホンメを救出する。

その一件から、互いに好意を寄せるようになる二人だが、海域を巡察する海洋警察と遭遇してしまい…。

スタッフ

  • 監督:シム・ソンボ
  • 脚本:シム・ソンボ、ポン・ジュノ
  • 原作:キム・ミンジョン
  • 製作:チョ・ヌニョン、キム・デファン、ポン・ジュノ
  • 音楽:チョン・チェイル

2001年に実際に起こったテチャン号事件を戯曲化したものを、映画監督のポン・ジュノプロデュースで映画化したということですね。

キャスト

  • 船長 チョルジュ:キム・ユンソク
  • ドンシク役:パク・ユチョン
  • ホンメ役:ハン・イェリ
  • 機関長 ワノ:ムン・ソングン
  • 甲板長 ホヨン:キム・サンホ

少し余談になりますが…
心優しい機関長役のムン・ソングンについて。


(C) News1 wowkorea.jp様 2017/09/15 配信より引用

この人、俳優と政治家という二足のわらじで、様々な映画に出演しています。
2002年に政界に進出し、李明博政権時代の最大野党だった民主統合党(民主党の前身)の代表代行を務めたという輝かしい経歴。

2006年韓国公開の『韓半島』で悪事に手を染める総理の役を務めるなど、「この人政治家なのによく引き受けたな…」という役もあります。

こういったユーモアあるキャスティングも、韓国映画の面白い部分ですね!

作品背景

ここからは映画のネタバレを含む内容ですのでご注意ください。

実際に起こった事件がモデル

本作は、韓国で実際に起こった「第7テチャン号事件」をモデルに作られています。

事件の概要は以下の通り。

2001年10月、密入国を試みた朝鮮族の中国人60人のうち25人が窒息死し、船の乗組員らがその死体を海に遺棄した事件。
船長と密航の斡旋業者は懲役2年6ヶ月、乗組員らは懲役1年、執行猶予2年の判決。
(出典:ソウル新聞オンライン2014年8月4日より。元サイト韓国語です)

本作は事件の規模や展開をデフォルメし、より映画として面白いものに仕上げていますね。(実際の事件を題材にしたものにこういう表現をするのは不謹慎ですが、便宜上ご理解下さい)

そもそも「朝鮮族」って何?

朝鮮族とは、『中国に居住する朝鮮民族』のことです。
作中でもあるとおり、中国ではなかなか満足できる収入が得られず、韓国に出稼ぎにくるパターンが多いようです。
とはいえビザの申請もそう簡単にはいかず・・・第7テチャン号事件のように密入国することになるようです。

東洋経済オンラインの記事(2016年7月17日付)で、現地取材に基づいた朝鮮族の実態が記されています。(古い記事なので2021年現在は状況が異なっている可能性ありますが)

ホンメが目指す九老という地域には、朝鮮族の住む中国人街があります。
お兄さんはそこに住んでいるということですね。

映画『海にかかる霧』感想・解説(ややネタバレあり)

『船だけが自分の居場所』であるが故に

映画の序盤、なんとも平和ですが楽しみも無いような漁村が淡々と描かれ、「これから何が起こるんだろうか…」という不安を駆り立てます。

船長のチョルジュは、家に帰るとガッツリ奥さんの不倫現場に遭遇します。

ただ、奥さんは特段焦ることもなければ、チョルジュが怒り狂うこともありません。

当時の韓国にも色こく残っていたであろう家父長制(家庭における男性優位の形態)とは反対に、チョルジュはこの家庭で威厳も何もない様子。

チョルジュのアイデンティティは、家庭ではなく船の上にこそあったのではないでしょうか。


「海にかかる霧」予告編より
(C)2014 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & HAEMOO Co., Ltd. All Rights Reserved.

家族のように信頼してくれる乗組員達を露頭に迷わせるわけにはいかない。

ある意味、家族よりも強い絆で結ばれた乗組員達を、チョルジュは何としても守りたかったはずです。

なぜならチョルジュにとって船の上での自分こそが、唯一認められる自分であるからです。

乗組員の生活を守ることは、自分自身のアイデンティティを守ることでもあったのではないでしょうか。

なんとも男らしいようで、いじらしいきっかけでありました。

結果として、『密航の手伝い』という選択は地獄の始まりであったのですが…。

極限状態の人間の恐ろしさ

そんな『乗組員想い』である船長が、ある出来事をきっかけに家族同然の乗組員さえも口封じにかかります。

同じく乗組員も、常軌を逸した行動に何のためらいもなくなっていきます

2009年のポン・ジュノ監督作品『母なる証明』でも、人間の極限状態における心理描写が見事でした。

本作との共通点としては、人が狂っていく過程の描写がすごく丁寧なんですよね。

最初から根っからの悪人は一人もいないのに徐々に歯車が狂いだし、取り返しのつかない事態になっていくまでの過程に説得力があるといいますか。

しかも、そのきっかけが些細なことだったりするんですよね…。

なのに、登場人物の行動原理が全て納得できるものですし、そのあたりが綿密に練られており度肝を抜かれます。

『極限状態でこそ、薄暗く、醜悪な人間の汚さは滲み出てくるものである』

そんなことを突きつけられる作品です。

クライマックスの意外性

また、本作の魅力はクライマックスにもあると思います。

キャストにユチョンが出てきて、一人の女性と恋に落ちるとなると…。

色々あったけどハッピーエンドパターン』も、大いにあり得ると思ったんですがね。
さすがの製作陣、そんなに単純ではありません

『殺人の追憶』のように、独特の後味の悪さが残ります。

現実ってそんなにうまくいくわけないんですが、映画見る時くらい「スカッと」したい方も多いと思います。

そんな方々へのアンチテーゼと言わんばかりに、現実を突きつけるこの手法。

特にラストの表情といったら…!!

メンタルの状態が良好な時でないと、想像以上にエグられるクライマックスですね。

ハン・イェリの『ホンメ』感

朝鮮族の女性ホンメを演じるのはハン・イェリ
失礼な言い方になりますが、この方の『ホンメ』感、すごいです…!!

「海にかかる霧」予告編より
(C)2014 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & HAEMOO Co., Ltd. All Rights Reserved.

というのも、韓国の女優さんってすごく綺麗な方が多いんですが、本作においては綺麗すぎたり、顔立ちが派手すぎると作品が成立しなくなるというか。

純朴なドンシクが心惹かれる理由が、単に「ホンメがキレイな女性だから」と解釈されると、その他のガサツで下品な乗組員と同格に成り下がってしまいます。

ハン・イェリの素朴なルックス演技力が、本作のリアリティを担保する大きな要素になっています。
誤解なきよう言っておくと、ハン・イェリさんご自身はとても綺麗で魅力的な女性です!!

おわりに

いかがだったでしょうか。

個人的に、母が東方神起のファンだったので小学生の頃からユチョンの活躍は知っておりました。

2012年のドラマ『屋根部屋のプリンス』の時に彼の俳優としての魅力を知り、映画デビューの本作『海にかかる霧』も劇場公開後すぐに見に行った記憶があります。

彼はプライベートで色々あり…2019年に芸能界引退宣言もしたようですがのちに撤回

韓国外で活動を再開し、現在はYouTubeチャンネルも開設。日本語の歌も投稿してます。

ユチョンさんが、再び俳優として活躍することをイチ映画ファンとして期待します。

ちなみに本作『海にかかる霧』は、ハリウッドでリメイクされることが決まったようです。(出典:映画.com様 2020年9月11日付記事より)

シム・ソンボ監督は本作以後、まだ監督作品が無いようです。韓国メディアを見漁っても、次回作に関する情報は出てきませんでした(2021年7月14日時点)。

またポン・ジュノ監督とタッグを組むのか、単独で制作されるのかは分かりませんが、世界を驚かせるような次回作が楽しみでなりません。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も様々な映画紹介・レビューをしていきますので良かったらまたご覧ください。