ネタバレあり感想・考察『SEOBOK/ソボク』:『哲学的問いかけ』と『エンタメ性』を両立したSF超大作
こんにちは、Masashiです。
今回は、2021年7月16日から日本でも公開中の映画『SEOBOK/ソボク』:原題『서복』についてお話しします。
ドラマ『トッケビ』などで知られる、言わずもがな韓国を代表する俳優コン・ユと、ドラマ『雲が描いた月明り』などに出演し、『国民の彼氏』の異名を持つスター、パク・ポゴムのW主演で話題の本作。
また、脚本・監督は歴史的大ヒット作品『建築学概論』(2012)のイ・ヨンジュ。
>>『建築学概論』感想記事:“青春”というナイフで男性の胸をエグる恋愛映画!
「このタッグで面白くないことがあるのか?」と、はっきり言って私の期待値はもう臨界点。
胸の高鳴りを抑えきれず。早速、劇場で鑑賞して参りました…!!
来場者全員に『スペシャルサンクスカード』がもらえました。
予想してないだけに嬉しいですよねこういうの。
個人的結論としては大満足のSFエンターテインメント超大作、『SEOBOK/ソボク』について詳しくお話しします。
本記事はネタバレになるような内容を含むレビュー・考察記事ですので、作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
最後までご覧いただければ幸いです。
もくじ
『SEOBOK/ソボク』
あらすじ
脳腫瘍で余命わずかの元情報局エージェント・ギホン(コン・ユ)。
国家の極秘プロジェクトで誕生した人類初のクローン・ソボク(パク・ポゴム)を護衛する任務が舞い込む。
ソボクは不死の存在であり、「ソボクの骨髄を移植すれば君の命も助かる」と唆されたギホンは、自身の命のために任務を全うしようとする。
しかしソボクの存在は『人類に永遠の命を与える』ことでもあり、闇の組織に襲撃されてしまう。
人類の『救い』にも『災い』にもなり得るソボク。
ギホンはあくまで自分自身のために、闇の組織からの追跡からソボクを守り抜こうとするが…。
スタッフ
- 脚本・監督:イ・ヨンジュ
- 撮影:イ・モゲ
- 美術・イ・ハジュン
- 音楽:チョ・ヨンウク
上述しました通り、イ・ヨンジュ監督であることに加え…この豪華なスタッフ陣。
韓国映画界を代表する最高峰のスタッフ陣といっても過言ではないでしょう。
特に美術は『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞美術賞にノミネートされたイ・ハジュン。
あのパク社長の豪邸や半地下の家がある町はセットだったそうです…。
YouTubeに『パラサイト』特別映像でイ・ハジュンのセットについて各人が語っている動画がありました。
1:01あたりから登場される黒い帽子の方がイ・ハジュンです。
本作『SEOBOK/ソボク』はSFなので設定は非現実的なのですが、細部まで練られた近未来の研究所のセットによって、物語自体を地に足ついたものにしていますよね。
キャスト
- ギホン役:コン・ユ
- ソボク役:パク・ボゴム
- アン部長:チョ・ウジン
- イム・セウン役:チャン・ヨンナム
- シン・ハクソン役:パク・ビョンウン
このチョ・ウジン、最も忙しい俳優の1人とも言われるくらい引っ張りだこの俳優さんです。
©2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED.
『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)、『国家が破産する日』(2018年)などに出演してるんですが…。
冷酷な目つきや、少し高めの声質、インテリっぽい見た目の中に底知れぬ怖さを毎回感じますね。
人道に反した行為なんて歯牙にも掛けず「いくらでもやってきたよ」と、そんな役柄がピッタリな俳優さんですね。
そのため、この人が出てくると「また何か不穏なことが始まるんじゃ・・・」と身構えてしまうのは私だけでしょうか。
韓国俳優界きってのバイプレイヤーのチョ・ウジン、他の作品で意外なところで見かけるかもしれません。
映画『SEOBOK/ソボク』感想・解説(ネタバレあり)
ソボク役はパク・ポゴム以外に考えられない
ソボクは研究の実験体でしかなく、施設の中の世界しか知りません。
教育の影響で価値観は偏っており、社交性も著しく欠如しているものの、どこか可愛げがあるソボクは、ギホンも憎むことができません。
そんなソボクを演じる俳優の必要要件として、最も重視されるのは『純粋無垢な容姿』でしょう。
©2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED.
初めて見る街の景色に新鮮味を感じたり、ギホンの言動全てに疑問を持つ描写は、まさにパク・ポゴムの容姿でこそ成立するのだと感じました。
ただそんなピュアさとともに表現しなければいけなかったのが、ソボクの持つ闇の部分ですよね。
自らの出自や運命に対する疑問、目的も無しに永遠に生き続けなければいけないという虚無感、本作では見事に演じきっております!!
彼の真骨頂である『屈託のない笑顔』があまり見られない本作でしたが、ダークな役柄も完璧に演じ切ったパク・ポゴムの新境地。
まだご覧になっていない方はぜひご覧いただきたいです…。
人類の到達点への警鐘
ギリシャ神話で『イカロスの翼』という話がありますね。
ロウで作った翼で空を飛べる様になったイカロスは、父の忠告も聞かず太陽に近づいてしまいます。
イカロスの翼は太陽の熱で溶け、大海原へ落ちてしまうというお話。
本作でも、アメリカの未来学者が再三忠告をしていました。
「死という普遍的な運命こそが、人間を人間たらしめる」と。
そんなことには目もくれず、自らの利得のために死に物狂いのソイン研究所の会長。
最終的にソボクを捕らえ、人類の生死を操るれるまであと一歩だった会長が言った、「これこそが神の権力だと思わないか?」というセリフ。
忠告を聞かず、神に近づこうとした会長の翼は解けてしまいました。
不老不死や遺伝子研究の現状について話されているこの動画、非常に興味深かったです。
遺伝子解析の研究者で起業家でもある高橋祥子さんが、分かりやすく説明されています。
内容は「遺伝子研究が発展し、不老不死や不治の病の治癒も徐々に現実味を帯びてきた」というもの。
私の感想として、いよいよ人間が神に領域に手を出せるようになったのだと恐ろしく感じましたね。
いよいよ禁忌の領域に入ってきたのだなと。
ソボクのような不死の世界も、いよいよ「SFの世界だ」と一蹴できないのでは…と素人ながら感じております。
死生観の問いかけ
本作は、我々観客に様々な『死生観』を見せてくる作品です。
死に対しての考え方は人の数だけありますが、正解というものはないはずです。
作中でも、ギホンは仲間を見捨てて自身は生き延びたことを悔やむ反面、余命宣告されてからは生を渇望するという、相反する感情を持っています。
やはり、人間の『死を避ける本能』が働いたのでしょうか。
©2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED.
一方、この世で唯一不死の存在であるソボクは、「死ぬことも辛いし、永遠に生きるのも辛い。一体何を信じれば、僕は辛くなくなるのか?」と言っていました。
ただ、「誰かにとって意味のある何者かになれれば、死んでも構わない」という死生観を持っていました。
悔やむべき過去を持つギホンと、ただの実験体扱いしかされて来なかったソボク。
本来交わるはずのない、異なる死生観を持った2人が、人間らしい脆さと弱さを告白して心を通わせあう。
それぞれのバックボーンが人間味がありながら辛く切ないものであるからこそ、映画という2時間程度の短い尺の中で2人に感情移入することができました。
本作は、単に売れっ子俳優同志のW主演という『エンタメ性』だけが魅力ではありません。
映画全体を通しての『哲学的な問いかけ』をも、力強く両立している点こそが、韓国本土で大人気を博した大きな理由であると推察します。
社会派映画に進んで出演するコン・ユの本懐
本作は上述の通り、『人間の生死』という人類の普遍的なテーマを扱った社会派映画です。
コン・ユが兵役中に読んだ本に心動かされ、自ら映画化を進めたという『トガニ 幼き瞳の告発』(2012年)という作品があります。
韓国の聴覚障害者学校で実際に起こった性的虐待事件を映画化したものです。
この頃より、コン・ユは社会が抱える問題を、役柄を通して発信する『スポークスマン』の役目も果たしています。
つまり『映画のメッセージ性』を表現することに重きをおいている俳優です。
本作『SEOBOK/ソボク』でも、『人間の生死』に関してのメッセージを最大限の役作りと演技で表現していました。
2021年7月現在で42歳のコン・ユ。
月並みですが、彼の出る映画ってほんとにハズレなしですよね・・・。
おわりに
いかがだったでしょうか。
まだご覧になっていない方はぜひお早めに劇場に!! レベルの高い近未来アクションシーンも見どころですよ。
私が見に行った時は祝日の夕方なんですが以外にお客さん少なかった印象です…個人的に大満足な作品だけに残念。。。
前日に見たアニメ映画『竜とそばかすの姫』の方が、話題性もあったのか圧倒的にお客さんは多かったです。
『パラサイト 半地下の家族』以降、韓国映画の魅力が日本でも評価されている追い風状態の現在、
この『SEOBOK/ソボク』も徐々に話題になってくれればいいな…と期待しております。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も様々な映画紹介・レビューをしていきますので良かったらまたご覧ください。
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