『サムジンカンパニー1995』感想:見るもの全てに勇気をくれる。今日からあなたも「We can do it!!」
こんにちは、Masashiです。
今回は、2021年7月9日から日本でも公開中の映画『サムジンカンパニー1995』についてお話しします。
シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショーです。
映画公式サイトに劇場情報が随時更新されてますのでご参考までに。
【追記:2021年9月26日】
DVDが11月3日(水・祝)に発売決定!
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(TWINオンラインの外部リンクです)
韓国で1991年に実際に起こった企業の水質汚染事件をベースに、企業の不正を知った女性社員達の奮闘を描いた本作。
事件をベースにしてはいるものの、映画でフォーカスされているのは『女性社員のキャリア問題』です。
サムネイルにもなっている、主人公ジャヨンの「剣を抜いたのに何もしないの?」というセリフ、観賞後だと胸に沁みますね。。。
ちなみに原題はというと『삼진그룹 영어토익반』で、日本語訳は『サムジンカンパニー 英語TOEICクラス』ですね。
ストーリーにおいて英語が非常に重要なエッセンスでして、主人公達の韓国語なまり丸出しの英語がとても愛らしいです。
ちなみに題材になった、斗山電子のフェノール流出による水質汚染事件の全容を細かく知れる記事はこちらです。PDFで26ページに渡りますが興味がある方はぜひ。
本記事レビューは、核心的なネタバレになるような内容は含みません。
最後までご覧いただければ幸いです。
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もくじ
『サムジンカンパニー1995』
あらすじ
1995年、韓国の『グローバル元年』であり、国民は急速なグローバル化に着いて行くことを迫られていた。
大企業・サムジン電子に勤める高卒女子社員たちのメイン業務は、お茶くみなど大卒社員の雑用ばかり。
そんな中、会社から『TOEICで600点を超えれば「代理」という役職を与える』と通告される。
キャリアアップのチャンスを与えられた女子社員達は、なんとしても600点以上を取るべく補習に出席する。
そのうちの一人、ジャヨン(演:コ・アソン)はある日、自社工場から汚染水がたれ流されている事実を知る。
急いで会社に報告するも、その事実は社内の何者かによって隠蔽されてしまう。
近隣住民の命に関わる事態を公にするため、ジャヨンは同僚達と力を合わせて犯人を特定しようとするが…。
キャスト
- イ・ジャヨン役:コ・アソン
- チョン・ユナ役:イ・ソム
- シン・ボラム役:パク・ヘス
主人公の一人、コ・アソンはもう名作と言われる韓国映画の常連ですが…。
ポン・ジュノ監督『グエムル』で制服を着て熱演していた少女が、いつの間にか大人の女性になられていました…。
© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.
と思ったら、大人になってから『ビューティー・インサイド』や日本のドラマ『深夜食堂』にも出てましたね。
しかし! そんなコ・アソンだけではないのが本作です。
主人公はコ・アソン含む3人のトリオで、それぞれしっかりキャラが立ってます。
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写真左、姉御肌のユナを演じたのはイ・ソム。さすがモデル出身だけあり・・・90’sファッションがひときわ長身に映え、洗練されて見えましたね。
第41回青龍映画賞(韓国トップの映画賞)で助演女優賞に輝いています。
これは大いに納得…!
そして写真右、数学の天才ボラムを演じたパク・ヘス。
優秀なのにどこか抜けている、おっとりした演技が光っていました。
余談ですがこのパク・ヘス。
歌とダンスのオーディション番組『K-POPスター シーズン4』で芸能界デビュー。オーディション自体は、歌唱力を高く評価されつつも敗退。
このときの審査員の1人にJYPのパク・ジニョン氏(JYPark)がいました。
2015年になると、女優へと転向し、現在に至ります。
この3人が人気番組『ユ・ヒヨルのスケッチブック』で歌っている公式動画を見つけましたのでぜひご視聴ください。
みんな上手いんですが、特にパク・ヘスの歌唱力、度肝を抜かれました。
本作のボラム役とのギャップに完全にやられます。
話が少し逸れましたが、それぞれ個性の立っている3人を中心に巻き起こる物語を描いた映画『サムジンカンパニー1995』、ここからレビューです。
映画『サムジンカンパニー1995』レビュー
韓国映画の『エンタメ昇華力』には脱帽
まず本作の作品背景についてです。
冒頭でも申し上げた通り、本作の大きなテーマは『女性のキャリア問題』についてです。
作中では女性というだけで、希望する仕事をやらせてもらえない描写が存分に描かれています。
1995年当時、現在では考えられないような性差別が当然のように存在していたわけです。
男女平等が世界標準になりつつある2021年現在でも、それらが根絶したとはとても言い切れません。
日本も含め、まだまだ前時代的な風潮・人材が残存する企業は少なくないのではないでしょうか。
ここ数年の韓国映画シーンで名作と呼ばれる、『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)、『はちどり』(2020年)。
映画『はちどり』のレビューはこちら
大ヒットを記録したこれらの作品は全て『韓国社会における女性の立場』にフォーカスしています。
そして、本作『サムジンカンパニー1995』もその一つ。
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作り手の「韓国社会における女性の立場」に対するメッセージを、我々観客に対して映画を通して伝える。
これはもちろん、「必要な要素を詰め込んで2時間の映像にすればいい」という単純な話ではありません。
社会が抱える問題点と、その重みをしっかりと残しつつ、映画というエンタメ作品を作り上げる。
それができて初めて、作り手のメッセージは多くの観客に伝わるものだと思っています。
なぜ韓国映画はここまでヘビーでシビアな題材をことごとく『エンタメ昇華』できるんだ?と、毎回脱帽です。
本作『サムジンカンパニー1995』も、その点でも最高峰の完成度。
背景に大きなテーマを抱えながら、シンプルに映画としても面白い。
だから韓国映画はやめられない…改めて感じましたね。
あと、作中に美味しそうな韓国料理が出てきます。
個人的な決めつけですが、美味しそうな料理が出てくる韓国映画はハズレなしと思ってますのでご参考までに…。
韓国版ショムニ? 正直そんなもんじゃない
シンプルに映画として面白いと申しましたが、具体的には物語そのものの「痛快さ」です。
ストーリーの壮大さ、先の読めない展開、飽きさせないテンポの良さ。
これら全てが相まって、絶妙な「痛快さ」を演出しているのです。
本作が日本公開され、どのような映画であるかイメージさせるためにありがちな例えとして、
「韓国版ショムニ」だと言われることが多いんです・・・。
個人的にはその形容はあまり適していないと考えます。
ご存知の方も多いでしょうが、日本のドラマ『ショムニ』は、企業における女性社員の人間模様を描いたドラマ。
シリーズ化されるほど人気で、私も再放送含めよく見てましたのでその上で申し上げます。
『サムジンカンパニー1995』との共通点は「企業の女子社員」にスポットを当てているという部分のみで、中身は似て非なるもの。
はっきり言って、ショムニなんかとはスケールが違うんだということです。
もちろん『ショムニ』は面白くて大好きですが、分かりやすく形容するために例として出すにはあまりに卑近であると言いたいです。
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本作『サムジンカンパニー1995』は、主人公が自社の隠蔽工作を暴くお話。
会社の命令と住民との板挟みになり、自分自身の生き方やキャリアそのものについて自問自答する主人公。
「いったい私は何がしたくてこの会社に入ったんだろう?」
会社員であれば誰もが直面する命題に葛藤します。
結局は、自らの信念を元に、仲間とともに会社に立ち向かうことを決心することとなるのですが…。
はっきり言って、鑑賞時は心臓を直接掴まれて揺さぶられるような衝撃を受けました。
これから社会人になる人、すでになっていて数年経つ人、もう数十年経つ人。
この映画を見て感じることは、それぞれの立場で異なるとは思います。
しかし、絶対に忘れてはいけない初心や信念、ひいては自分の生き方そのものを再認識できるような映画です。
誰もがこの映画の登場人物で、当事者なんだと。
それほどに組織の持つ様々な情緒が散りばめられている作品だからです。
きっと、あなたもこの映画にいるはずです。
ご自身の価値観と照らし合わせながら鑑賞することで、少なからず感じることがあるはずです。
男女関係なく、心打たれる「We can do it!!」
誰もが本作の登場人物に自分を投影できると申しましたが…私が特に感じた部分は、主人公ジャヨンが理不尽に立ち向かうところでした。
というのも、私自身が会社に勤めており、作中の彼女たちのような理不尽な扱いは嫌というほど経験してまして。
映画を見ながら、自分の経験と重なって様々な思いが巡りました。
大前提なのですが、会社に勤めている限り、いかなる理不尽な命令も受け入れて従うことが大前提です。
しかし、自分の中で曲げられない信念に反する事を強いられた時は、声をあげることも大切だと思います。
本作中で主人公ジャヨンが言っていた、「自分の仕事が、せめて誰かの役に立っていて欲しかった」と言うシーン。
誰かの役に立っていると思っていた自分の仕事が、実は近隣住民の健康を脅かす事であったこと。
その上、その事実を隠蔽する手伝いもしていたこと。
この事実は、ジャヨンの信念に反する部分だったということですね。
彼女は、その信念を曲げてまで会社に従うことをしませんでした。
声をあげて、問題を根本的に解決すると決断したことは、讃えられるべき行動だと思います。
キレイ事に聞こえるかもしれませんが…おそらく我々にも大なり小なりそういった局面はやってくるのでは無いかと。
そんな時、ジャヨンたちのように我々も理不尽に立ち向かっていかないといけない。
映画全体を通して、また特にジャヨンたちが皆で叫ぶ「We can do it!!」に、私は勇気をもらえました。
男女問わず、組織や上司の理不尽に屈してはいけない時にこそ、思い出して欲しい映画です。
また、映画にこんなことを言うのはヤボだと承知の上ですが、
物語は1995年ですので、2年後の1997年にIMF通過危機で韓国は史上最高レベルの不景気に見舞われることになるんですよね。
私が大好きになったこのトリオも、考えたくないですが多大な影響を受けるかもしれません。
サムジン電子も大規模なリストラを敢行するしれません。
ただ、どこかで「きっと、彼女たちなら大丈夫」と、勝手に安心していました。
それほどにジャヨンたちはパワフルで、地に足をつけて生きていたからです。
そう思わせてくれる生き様を、私自身も見習わないといけませんね…。
本作鑑賞後、心から「映画っていいなぁ」と思わせてくれた作品でした。
映画の力を全身で感じることのできる『サムジンカンパニー1995』、本当にオススメです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
2021年07月09日(金)に公開され、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショーとのことです。
8月6日現在でも上映中です。
映画公式サイトに劇場情報が随時更新されてますのでご確認はこちらから。
韓国の青龍映画賞でも音楽賞受賞作品だけあって、重厚なSEと、対照的に90年代を彷彿とさせるポップでノスタルジックな音楽が効果的でした。
音楽を楽しむためにも、ぜひ劇場でご覧いただきたいです!
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も様々な映画紹介・レビューをしていきますので良かったらまたご覧ください。