【あらすじ&レビュー】Netflixオリジナルシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』:韓国・徴兵制の闇を生々しく描いた傑作ドラマ
こんにちは。Masashiです。
今回は、2021年8月27日より配信開始されたNetflixオリジナルシリーズ、『D.P. -脱走兵追跡官-』の紹介&レビューです。
※ややネタバレを含む記事です。核心的なネタバレは致しません。
本作は60分×6話なのでドラマになるのでしょうが、あまりに衝撃的な作品でしたのでご紹介いたします。
もくじ
D.P. -脱走兵追跡官-
韓国は、2021年現在も北朝鮮との『休戦状態』にある。
こうした背景から、韓国に成年男子は一定期間国防の義務がある。
病気などの特別な事情がない限り、満20歳~28歳の誕生日を迎える前までに入隊しなければならない(所属部隊によって異なるが2年前後)。
いわゆる韓国の『徴兵制』であり、好きなK-POPアイドルが兵役で芸能活動から離れることを経験した方も多いのではないか。
これはK-POPファンの宿命とも言われ、応援する側も辛いが、兵役に行く本人の方が辛いことは言うまでもない。
ただ、「国家のため、国民のため」という大義名分で、喜んで入隊する人間の割合は決して高くないはずある。
『軍隊』の中の、絶対的な上下関係と厳しい訓練。
そんな特殊な環境に順応できる人間と、そうではない人間に分かれる。
当然、脱走兵も生まれるわけである…。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
『D.P. -脱走兵追跡官-』では、そんな兵役からの脱走兵を追跡し、再び連れ戻す「脱走兵追跡官」にスポットをあてた作品。
D.P.とは、Deserter Pursuit(脱走兵追跡)の略。
あらすじ
主人公のアン・ジュノ(演:チョン・ヘイン)は、兵役中の軍人。
上官にD.P.(脱走兵追跡官)配属を言い渡され、先輩のハン・ホヨル(演:ク・ギョファン)とバディを組むことになる。
与えられる任務は、兵役を不当な理由で逃れようとする脱走兵を連れ戻すこと。
執拗ないじめに耐えかねて脱走する者、ただ一人の身寄りの祖母の生活のために脱走する者。
それぞれが限界を迎えた時、最後の選択である『脱走』を決意する。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
公式予告動画
作中、「お前らは、軍人か?民間人か?」という言葉がしきりに使われる。
それまで軍隊と無関係だった人間も、徴兵制で否応なしに『軍人』になることを強制される。
そこから生まれる人間関係の歪みと、不調和と理不尽。
想像を絶する兵役の闇の部分を克明に描く話題作。
胸に来る秀逸なオープニング
本作は6話構成であるが、毎回流れる秀逸なオープニングに注目してほしい。
「大韓民国の男子は法の定めるところにより兵役の義務を遂行しなければならない 大韓民国兵役法第3条」という文言とともに、オープニングが流れる。
ホームビデオのような淡く、荒い画質で、男の子の成長過程が流れる。
いつしか男の子は成人し、入隊式で家族と離れるべく別れを惜しむというもの。
流れるKevin Oh, Primaryの 「Crazy」という曲。
これから始まる過酷な兵役生活に、大切な息子を送り出す親の切ない心境をうまく表現したオープニング。
この世に生を受け、無条件に愛された息子が、理不尽な世界に放り込まれる。
最後に、チョン・ヘインが振り返り、緊張と憂いが入り混じったような表情でこちらを見つめる。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
ここからはややネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本作の舞台になっているのが2014年の韓国。
この年は軍隊の中で殺人事件が立て続けに2件発生した年である。
1件はいじめによる暴行死、もう1件は同じく執拗ないじめに仕返しで銃を乱射し、5名を射殺した事件。
当時は兵役・軍隊の在り方が問われるも、根本的な改善は行われず現在に至る。
本作でも、アニメ好きで心優しい一等兵チョ・ソクポン(演:チョ・ヒョンチョル)がターゲットにされる。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
主人公ジュノと同部隊のソクポンは、上官のファン・ジャンス(演:ソ・スンホ)から執拗ないじめを受け、人格さえも変わるほど肉体的にも心理的にもダメージを受けていた。
ジャンスが先に除隊した後も、その取り巻きからいじめを受けるソクポンはついにやり返し、そのまま脱走するのである。
目的は、全ての元凶であるジャンスに復讐を果たすためである。
D.P.であるジュノは、ソクポンを捕らえる任務を与えられる…。
脱走する兵士の中には、もちろん「怠惰」が理由の者もいるかもしれない。
しかし、執拗ないじめを受けて限界を迎えて脱走する兵士を捕らえて連れ戻すことは本当に正義と言えるだろうか?
主人公ジュノも、与えられる任務に自らの信念が揺らぐ。
韓国は人口が約5,100万人であり、日本と同じく少子高齢化社会である。
慢性的な兵士不足であり、徴兵制はそれを補うための必要不可欠な制度としている。
あまりに生々しく残酷で胸にくる本作であるが、兵役の内情を克明に描いた点が評価され、韓国国内でも共感の嵐を呼んでいる。
今まで扱うことをタブー視されてきた「徴兵制」を題材にし、その是非を真っ向から問う本作。
あくまで隣国の第三者である我々が単にエンタメとして消費するには重すぎるテーマだが、本作品の持つ社会的意義は大きいのではないだろうか。
韓国俳優界の実力派が集結した本作
本作を格上げしているのはキャスティングの上手さである。
特に演技派の二人であるのはハン・ホヨルを演じるク・ギョファンと、チョ・ソクポンを演じるチョ・ヒョンチョルである。
ク・ギョファンは映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』でその高い演技力が評価され、大ヒット作『モガディシュ』にも出演し今や売れっ子俳優。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
本作でも、全体としてシリアスな雰囲気を3枚目の演技で緩和するバランサーとしての役割を果たしている。
クドすぎない自然な演技と、どこか不気味なキャラクターが絶妙なアクセントになっている。
また、チョ・ヒョンチョルもここ数年で脚光を浴びている一人。
©︎ 1997-2021 Netflix,Inc.
映画『サムジンカンパニー1995』のチェ代理や『偽りの隣人 ある諜報員の告白』などで名脇役のポジションを確立していたが本作は非常に重要な役どころ。
その狂気あふれる演技は、「韓国版ジョーカー」と評されるほどの迫力。
この人が本作の格を押し上げていると言っても過言ではない。
キャスト陣インタビュー動画(日本語字幕なし)
おわりに
いかがだったでしょうか。
正直、気軽に視聴されることはオススメできません。
ただ、間違いなく心が揺さぶられる傑作です。
ご覧いただきありがとうございました。
また次の記事もご覧頂ければ幸いです。