『悪人伝』は実話? モデルとなった“天安連続殺人事件”とは。

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今回はマ・ドンソク主演映画『悪人伝』のモデルになった“天安連続殺人事件”について。

あまり知られていませんが、実話ベースの映画です。

本記事の内容は以下の通り。

  • 事件概要
  • 犯人逮捕とその後
  • 映画と実話の共通点

※以下の『もくじ』から好きなところへ移動できます。

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もくじ

『悪人伝』のモデルになった事件【実話】

事件概要

“天安連続殺人事件”とは、2005年2月〜12月にかけて発生した4人組による連続殺人事件。

合計9名が殺害された痛ましい事件です。その他にも身代金目的の誘拐1件、強盗致傷2件、強盗未遂1件、窃盗1件など、合計18件にも及びます。

犯人が別件で逮捕

実は、警察はこの事件の捜査においては犯人を検挙できていませんでした。

善良な市民が次々と、そして無差別に被害に遭っているにも関わらず、警察は犯人の手がかりさえ掴めていない。

そんな状況に、天安の住民たちは恐怖に包まれていました。

映画でもキム・ムヨル演じる刑事が捜査に行き詰まっていましたね。

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しかし、ある事件をきっかけに事態は急展開。

2005年12月、牙山(アサン)市にある大学の経理部長含む2名が殺害されました。

事件の容疑者としてA氏(当時43歳)とB氏(当時43歳)が逮捕されました。

彼らは被害者家族からの身代金5000万ウォン(約500万円相当)が目的でした。(結局、頓挫します)

そして容疑者の家宅捜索の結果、自宅から血がついた凶器等が押収されます。

一連の連続殺人と同一犯の疑いがあったのですが…この時点では証拠不十分でした。

犯人による自白

管轄の天安警察署に、刑務所に収監中のA氏から一通の手紙が届きます。

その内容は、「強盗殺人7件、強盗傷害2件、身代金目的の誘拐1件など、計12件の余罪を自白する」というもの。

そしてA氏の実の兄(C氏・当時56歳)と友人D氏(当時53歳)も共犯であるとも書かれており、警察はこの二人を共犯者として追加で逮捕。

すでに死刑宣告を受けていたA氏でしたが、自身の減刑を目的に共犯者の自白をしたものと見られています。

驚愕の“4人組”での犯行

自白によって明らかになった組織的な犯行は韓国全土を揺るがしました。

彼らによる最終的な殺人の一覧は以下の通りです。(日付、被害者の方とその年齢です)

  • 2005年2月15日 キムさん(53歳)強盗殺人
  • 2月25日 イさん(34歳)強盗殺人
  • 3月6日 チェさん(34歳)強盗殺人
  • 4月27日 キムさん(57歳)強盗殺人
  • 5月5日 ペクさん(58歳)強盗殺人
  • 5月17日 チュさん(47歳)強盗殺人
  • 5月27日 ユさん(51歳)殺人
  • 7月12日 チェさん(58歳)強盗殺人
  • 11月19日 キムさん(52歳)強盗殺人

ターゲットに共通点はなく、彼らの殺人は完全に“無差別”でした。

犯行に至るまで

裁判を経る中で、犯人達の境遇犯行動機が明らかになります。

主犯のA氏B氏は中学時代の同級生。

A氏は小学生の時に父を亡くし、高校を中退した後は荒んだ生活を送っていました。

さまざまな事業を始めるもなかなかうまくいかず…1997年のIMF危機が決定打となって店をたたむことに。

家庭も持っていましたが金銭面が問題で2003年に離婚。

そして中学の同級生B氏と2004年に再会。

A氏が自身の近況を伝えたところ、B氏の勤める会社で働くことになります。

しかしその会社も経営不振に陥り、給料の未払いが続き…二人は犯罪に手を染めることに。

土地勘のある地元、天安を活動場所に決めます。

そして2005年2月15日、金銭目的で最初の殺人を犯します。

綿密に計画を立てて殺人を重ねていきますが、思ったほど金銭を奪うことができず。

A氏は、自分と同じような境遇の兄C氏を引き込みます。

また、B氏は職場で知り合ったD氏を引き込みます。

かくして4人組となった“殺人鬼集団”の凶行は加速して行くのでした。

金銭目的であったはずが、彼らが強盗殺人で得たのは1,000万ウォン(約100万円相当)のみ。

そのため、犯行動機は“社会への復讐”ではないかとも言われていますが、真意は不明のままです。

犯行がバレるのを恐れるが故に、被害者を無条件に殺害するという残虐性が世間を揺るがしました。

最終的に、主犯のA氏は刑務所内で自殺。B氏とC氏(A氏の兄)は無期懲役、D氏は懲役7年の判決。

この判決に関しては皆さん様々なご意見あるかと思います。。。

警察への批判

ここまで被害が広がるまで食い止められなかった警察。当然、世間から大バッシングを受けました。

「人手不足で十分な捜査体制が整っていなかったのではと」指摘されています。

2002年には約43万7千人余りだった天安市の人口は、2005年昨年12月時点で約51万8千人まで急増。
3年間で約8万人以上が増えたことになります。

2004年4月にKTX(韓国高速鉄道)も開通し、天安の急速な人口増加が予見されていたにも関わらず、管轄署の警察官は人員不足。

そして防犯カメラや街灯などのインフラ面の整備も不十分であったことも指摘されています。

『悪人伝』と事件がリンクする部分は?

冒頭でも申し上げた通り、あくまで事件から“着想を得た”映画。

とはいえ、事件とリンクしている描写もあります。

①第一の犯行

2005年2月15日に殺害されたキムさん(53歳)。
彼は犬の飼育場のオーナーだったのですが、映画でも飼育場で男性が殺害される描写がありました。

②第二の犯行

2005年2月25日、イさん(34歳)は車同士の接触事故を装い殺害されました。
劇中の殺人犯は主にこの手口を使ってましたね。(映画では実際に衝突していましたが)

リンクしているのはこの部分で、あとは基本的にフィクションです。実際の事件は4人組でしたが、キム・ソンギュ演じる殺人鬼は単独犯でしたね。

劇中では、たまたま殺人鬼のターゲットがマ・ドンソク演じる暴力団のボス、ドンスだった…というところから物語が始まります。

(c)2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

その時はなんとか殺人鬼を追い払うも、ドンスは重傷を負ってしまいます。

そして、ドンスは刑事と共闘して犯人を追うという物語でした。

おわりに

いかがだったでしょうか。

ちなみに、この事件よりも前(2003年〜2004年)にソウルで連続殺人が発生しました。皮肉にもこの事件がきっかけで韓国警察の科学捜査能力が飛躍的に向上した…とのこと。

“天安連続殺人事件”は2005年2月〜12月ですから、ソウルの連続殺人事件から間もない頃に発生したので防げなかったのかなと。

2021年現在では警察の捜査能力もそうですが、至る所に高性能のCCTV(防犯カメラ)が設置されていますよね。

この先、悲惨な事件が起こらないことを切に願っています。

また、当ブログでは他にも実話ベースの映画を紹介した記事を紹介しています。

ぜひご覧ください!

最後までご覧いただきありがとうございました。

■参考記事(全て原文韓国語)
忠清タイムズ2007年2月14日記事
ハンギョレ2006年2月16日記事
ハンギョレ2007年2月13日記事
東亜日報2004年3月29日記事
聯合ニュース2006年2月13日記事