『工作 黒金星と呼ばれた男』のモデルになった男達

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今回は、映画『工作 黒金星と呼ばれた男』について。

“黒金星”のモデルになったパク・チェソ氏と、リ・ミョンウンのモデルになったリ・ホナム氏を紹介します。

そして、中盤からはパク・チェソ氏のメディアでのインタビューや、映画はどこまでが実話で、どこからがフィクションなのかをまとめています。

本記事は映画のモデルを紹介するため、映画自体のネタバレを含みます。

※以下の『もくじ』から好きなところへ移動できます!

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もくじ

“黒金星”本人、パク・チェソ氏

“黒金星”は劇中ではファン・ジョンミンが演じ、“パク・ソギョン”という役名。

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モデルになったのは実在する人物パク・チェソ氏。
この人の回顧録やヒアリング内容を元に映画が制作されました。

パク氏は1954年生まれ。地元・忠清北道の名門である清州高校卒業後、陸軍士官学校を経て職業軍人になります。

極めて優秀でエリート街道を進んでいたパク氏。“国軍情報司令部”という部署に配置され、1991年から対北朝鮮の工作部隊“A-23”に所属。

しかしその後酒とギャンブルに溺れ、1993年に“債務不履行者”になり除隊。(後述しますが、これは後に対北スパイとして活動するための作戦でした)

その後、パク氏は秘密裏に諜報機関である“安全企画部”に所属を移し、核開発含む情報収集のために北朝鮮の潜入計画が本格始動させます。

北朝鮮の苦しい経済状況に着目し、ビジネスマンとして北朝鮮へ潜入する作戦を進めます(暗号名“黒金星”)。

目をつけたのは広告事業。広告プロデューサーのパク・ギヨン氏の隣に引っ越し、親しくなって共に事業を始めることに。

1996年に2人は“AZAコミュニケーション”という法人を設立、パク・チェソ氏は専務に就任して事業を開始します。

パク・ギヨン氏は昔から北朝鮮を舞台にした広告を作りたがっていたので、それを知って計画的に進めたそう。(ここは特にフィクションのような部分でしたが実話だったとは…)

劇中でもあったように、金正日・元総書記とも対面しています。

しかし1998年に“北風工作”※が報道され、その責任を押し付けられる形になったパク・チェソ氏。所属の“安全企画部”をクビになりました。

    ※“北風工作”とは…
    劇中であまり説明がなかったのでイマイチ理解できない方も多かったと思います。
    韓国の安全企画部主導で北朝鮮に金銭を渡し、韓国へ軍事的な“偽装攻撃”を依頼した事件です。
    当時の韓国は大統領選挙前で、野党の金大中候補が当選しそうだったんですね。
    安全企画部の前身は朴正熙政権時代の“KCIA”で、当時から民主化・自由化を推し進めようとする金大中を殺害しようとしてました。
    そのため『金大中が大統領になればおそらく安全企画部は潰されるだろう』と懸念していた訳です。
    実は前回の選挙時、北朝鮮から軍事的攻撃を受けた際に与党の支持率がアップした経緯がありました。
    北からの攻撃があると、やはりゴリゴリ軍事推進派の与党の支持が高まるのです。
    安全企画部はこれを再現しようとわざわざお金を払ってまで北朝鮮から攻撃してもらうように依頼しました。
    最終的には金大中が当選し、彼らが恐れていたように安全企画部は“国家安全企画部”に改編されます。

パク・チェソ氏にしてみれば、長い間命懸けで潜入していたにも関わらず責任を負わされ、トカゲの尻尾として切り捨てられた訳ですね。

彼はすぐには処罰されなかったものの、2010年6月1日に国家保安法違反(スパイ)の容疑で逮捕され、2016年に出所。

2017年の本作『工作 黒金星と呼ばれた男』公開後は注目を浴びて様々なインタビューにも応じています。

2021年12月9日現在もご健在です。

劇中の“リ・ミョンウン”本人、リ・ホナム

劇中でイ・ソンミンが演じたリ・ミョンウンというキャラクター。

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モデルになったのは、リ・ホナム氏という実在の人物。

1953年生まれ、金日成総合大学経済学部出身。
劇中でもあるように資本主義経済を学んだ人物。

劇中では、“北朝鮮対外経済委員会”の所長として登場します。海外とのビジネスで外貨を稼ぐ役割ですね。

実際のリ・ホナムは劇中のような“経済労働者”でもありながら、パク・チェソ氏と同じく“スパイ”の面も持ち合わせていたようです。

パク・チェソ氏と接触していた時は“リ・チョル”という名前を用い、氏名と役職などを変えながら活動を行なっていたといいます。

パク・チェソ氏は自身の裁判にて「リ・ホナム氏はスパイではなく経済官僚である」と述べました。

このことから、どちらの面も持ち合わせていたという見方が強いですが、真相までは不明です。

現在の動向も不明です。。

“黒金星”パク・チェソ氏本人のインタビュー

ご本人が映画に関して言及しているインタビュー動画はこちら。
2分34秒あたりから、劇中のリ・ミョンウンにあたるリ・ホナム氏についても語っています。

以下、動画の日本語訳です(抜粋・多少の意訳を含みます)。

Q.映画を鑑賞した感想は?

A.(鑑賞前は)少し心配しました。製作陣が全く触れたことのない、経験したことのない分野じゃないですか。
けれどいざ映画を観てみたら、思ったより上手く作ったなぁと。

Q.映画化の提案はいつ受けましたか?

A.(刑務所に)収監されている時、妻と長女が来て「映画化の提案が来た」と聞かされました。
けれど全く関心が無かったし、自分のことが世間で再び話題になるのが嫌でした。
そしてパク・クネ大統領時代だったじゃないですか。

CJ(映画制作会社)のイ・ミギョン副会長が国外に出るほど、迫害されてた時代です※。

そんな中、「私を題材にした映画を作ることは並大抵の気概ではないな…」と胸に来ました。

    ※当時のパク・クネ政権は、政府批判とも取れる映画を作っていた企業CJとイ・ミギョン副会長本人に対し“迫害”と言えるほど圧力をかけていました。
    そんな中でパク・チェソ氏を題材にした映画を作ることはなかなか勇気がいることではないか、ということです。
    結果としてパク・クネ政権は2017年3月10日に終わりを迎え、本作公開時には比較的寛容なムン・ジェイン政権でしたので公開できたようですね。

Q.映画で俳優ファン・ジョンミンが黒金星を演じましたが。

A.役どころを忠実に再現しようと勉強していたようです。
映画撮影前に会ったんですが、“共感できる演技”をする人だと感じましたね。

Q.映画は実話と共通していますか?

A.実話をそのままに映画化していたら、おそらくつまらなくて見てられない映画になったと思います。
北朝鮮を自由に出入りして…という話でしたが、実際はそれ自体が苦痛で仕方がなかったです。

(痕跡を残してはいけないので)記録もできないし、全てのことを“記憶”しなければいけなかったので…
頭のキャパにも限界がありますし、頭が壊れるくらい痛かったです。

私の場合、(記憶できる限界が)10日程度でした。だから北の滞在が10日を超えたことは無かったです。

Q.安全企画部(国の諜報機関)のスパイになったきっかけは?

A.自分の力量(スキル)を発揮して国家の助けになるなら、(スパイになることも)一つの道だと思って決心しました。

Q.劇中で“債務不履行者”になった過程などは事実ですか?

A.事実ですが、それはスパイとしての作戦の一種です。

身分を偽って潜り込む任務なので、相手が自分の身辺調査をするじゃないですか。そのために備えておくんです。

“債務不履行者”や“前科者”という(ニセの)記録を作っておくという、スパイにおける基本的なノウハウです。

Q.劇中のリ・ミョンウンにあたるリ・ホナム氏の最初の印象は?

A.ハンサムでした。知的で清潔感があって、世俗に染まっていない典型的なエリートという印象でした。

(社会主義である北朝鮮において)資本主義を学んだ数少ない人材。話が通じる、そんなマインドを持った人でした。

(学年で言うと)同い年でした。親しくなってから、「イさん※」「パクさん」と呼び合ってました。

今は全く…事件(国家保安法違反で逮捕)以来、縁が切れてます。

    ※北朝鮮における“リ”という姓は、韓国における“イ”(李)ですね。
    韓国では語頭に来るラ行はア行に変換されます。

Q.金正日と会った時は劇中のように録音しましたか?

A.劇中では(大きな)録音機を持ってましたね。すごくアナログでしたね。

実際のスパイ活動ではもっと小さく、精密な録音機を使います。

劇中では物語としてより面白くなるような描写にしていたと思いますが、実際はもっと小さな録音機です。

Q.スパイになったことを後悔したことはありますか?

A.自分が選んだ道、自分の行動に対して、私は後悔しません。

なぜなら、個人の私欲よりも、いつも国家の利益を優先するという信念で今まで生きてきました。

『残念だ』とか、『裏切られた』とか、『後悔する』とか…この仕事をするものの宿命なので、そう思うことは適切ではありません。

紆余曲折の人生でしたが、後悔したことはありません。

Q.ご自身のことが世間に知られましたが、今後の予定は?

A.(私の事を題材にした)本やドラマや、このインタビューのような放送が出てくるということは、国が“人物”や“事件”の再発掘を望んでいたんだと思います。

今まで国家の利益のために信念を持って仕事をしてきたという自信があります。
(中略)
南北における問題に介入したいという気持ちは全くありません。

パク・チェソ氏本人のインタビュー【金正日との対面編】

パク・チェソ氏が金正日・前総書記と対面した時の話を番組で語っています。

ある日、夜に呼び出しがあった

金正日は基本的に夜に仕事をしていたようです。

パク氏は北朝鮮滞在中のある日、身支度を綺麗に整えるよう言われます。

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そして外が見えない車に乗せられた時に「金正日のところに行くんだな」と思ったそう。

対面した印象

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金正日は想像よりも堅い雰囲気はなく、柔らかい雰囲気で話してくれたと言います。

お酒を勧められたが、“母との約束”を口実に断ったとのこと。

お母様との約束は本当でしたが、一番は酒を飲んでミスをすることを懸念していたからだそうです。

「統一したら共に飲ませていただきます」と丁重に断ったシーンは劇中でも描かれていましたよね!

『工作 黒金星と呼ばれた男』は、どこまでが実話?

ここまでご紹介したように、実話ベースの映画ですが脚色している部分もあります。
何が実話で、何がフィクションなのかをまとめました。

まずは実話に基づく部分から。

パク・チェソ氏は“債務不履行者”だった

これ自体は事実ですが、前述した通りスパイ活動を行う上で計画的に行なったことですね。

“黒金星”発覚後にも2人は再会していた

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本人インタビューによると“黒金星”のニュースが報道されてからも、パク氏とリ氏は頻繁に会っていたようですね。

2010年にパク氏が逮捕されてからは逮捕されてからは会っていないとのこと。

リ・ホナム氏も粛清されることもなく、パク・チェソ氏も特に処罰は受けず、安全企画部をクビになっただけで終わったようですね。(2010年に逮捕されますが…)

そしてフィクションの部分は以下の通りです。

リ・ホナム氏の正体

劇中のリ氏は外貨獲得のビジネス担当という設定でした。

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しかし前述した通り、実際のリ・ホナム氏は劇中のように“経済労働者”でもありながら、パク・チェソ氏と同じく“スパイ”の面も持ち合わせていたようです。

パク氏が提供した韓国に関する“情報”

劇中でパク氏がリ氏からの信頼を得るために渡した韓国の“情報”はあまり重要ではないような事項というふうに描かれていました。

しかし実際はかなりの“機密事項”であったとのこと。だからこそパク氏は金正日に会えるほどにリ氏からの信頼を得ることができたんでしょうね…。

“韓国への攻撃依頼”の金額

韓国の安全企画部が、大統領選挙に影響を与えるために北からの偽装攻撃を仕掛けるように依頼(北風工作)したシーン。

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劇中で提示していたのは400万ドルでしたが、パク・チェソ氏は『1000万ドルだった』とインタビューで答えています。

観客の方の気持ちを考慮して減らしたのではないかとの見解。

ここまでの規模になると、400万ドルも1000万ドルもあまり変わらない気もしますが…

パク・チェソ氏が訪朝中に“スパイ”だと報道された?

劇中ではパク氏が北朝鮮訪問中に“黒金星”のニュースが報道、リ氏に追求された後に温情で見逃されギリギリ北朝鮮を脱出する…というシーンがありましたね。

実際の報道時はパク氏は北朝鮮におらず、難を逃れていました。

ただ、前述した通り“黒金星”であると発覚後も2人は会っていたようですが、一体どのような言葉を交わしたのでしょうか…。

この部分に関してパク・チェソ氏はどのメディアでも語っていません。

親しかったリ・ホナム氏のことを配慮してのことでしょうか。

【おまけ】ラストシーンについて

パク氏とリ氏が再開した感動のラストシーン。

あるCMの撮影スタジオでしたよね。
あの部分も事実で、韓国のイ・ヒョリと北朝鮮のチョ・ミョンエが共演したCMでした。

実際のCMがこちら!

サムスン電子の“エニーコール”という携帯電話のCMでした。

イ・ヒョリは映画のこのシーンで本人役で出演してましたよね。

出典:매일경제2018年8月14日記事

これも結構驚きです!

おわりに

いかがだったでしょうか。部分的に脚色されているとはいえ、実話の部分が多くて驚きですよね。

他の実話ベースの映画をまとめた記事はこちら。

ぜひご覧ください!

最後までご覧いただきありがとうございました。

■参考記事(全て韓国語)
ハンギョレ2018年8月10日記事
매일경제2018年8月14日記事
東亜日報2002年10月31日記事
東亜日報2018年8月19日記事
オーマイニュース2005年5月17日記事
BBCニュースコリア2018年8月30日記事