『がんばれ!チョルス』は実話?モデルになった“大邱地下鉄放火事件”とは。
こんにちは。Masashiです。
今回は映画『がんばれ!チョルス』(2018年)のモデルになった“大邱地下鉄放火事件”を解説します。
消防士だったチョルスの知能が幼くなってしまった原因は、人命救助にあたった地下鉄火災でしたね。
実は、2003年に実際に大邱で発生した大規模火災がモデルです。
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本記事は以下の内容で事件について説明します。
- 事件概要
- 犯人と犯行動機
- 被害拡大の要因
- 当事者のその後
※以下の『もくじ』から好きなところへ移動できます。
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もくじ
『がんばれ!チョルス』のモデルになった事件【実話】
事件概要
“大邱地下鉄放火事件”とは、2003年2月18日に地下鉄中央路駅で発生した、無差別殺人を目的とした放火事件。
犯人が地下鉄内で持参したガソリンにライターで火をつけて燃え広がりました。
192名が亡くなり(そのうち6名は身元不明)、151名が負傷。
聖水大橋崩落事故(1994年)や三豊百貨店崩壊事故(1995年)と並んで、韓国国民の安全認識を改めるきっかけとなった出来事です。
当時のニュース映像がこちら。※現場の状況が映りますのでご注意ください。
犯人と犯行動機
犯人は当時56歳の男。
自身も被害者の方々と同じように病院に運ばれて処置を受けていましたが、周囲の証言によって犯人であると判明し逮捕に至ります。
彼は事件の約2年前に脳卒中で倒れ、身体障害と重度のうつ病を患っていました。
犯行動機として「脳卒中の治療を受けるも回復が見込めず、自殺を考えたが1人で死ぬのはあまりに悔しい」と語っています。
被害拡大の要因
きっかけは殺人を目的とした放火でしたが、ここまで被害が拡大した要因として大きく4つが挙げられます。
- 運転士の過失
- 指令員の過失
- 防炎機能のない列車の内装
- 機能しない防災システム
1つずつ説明します。
①運転士の過失
2人の運転士が責任を問われました。
1079号車(犯人乗車)の運転士
犯人が乗車していた1079号車が中央路駅に入った頃に火事発生。
1079号車の運転士が中央路駅に停車してドアを開けている時、乗客からの「火事だ!」という声に気づきます。
急いで乗客に避難を呼びかけますが、この時点で有毒ガスによる窒息で50名余りが死亡。
そして運転士は指令室に火災報告をしますが、位置や規模を適切に報告をしないまま退避。
1080号車(後続)の運転士
指令員へ報告されたから約2分30秒後、反対車線に別の1080号車が中央路駅に入りますが煙で視界が確保できず。
この時、1080号車は火災によって電力が遮断。自動運行に切り替わりドアが自動で開きます。
駅に充満した黒い有毒ガスが入り込み、列車内はパニックに。
1080号車の運転士は自動運転から手動に切り替えるために給電を試みますが失敗。
運転士はコントロールキーを抜いて退避。
すると1080号車のドアは自動で閉まり、中にいた乗客は閉じ込められました。
前にいた1079号車の火が1080号車に燃え移り、1080号車にも死者が大勢発生します。(実は後続の1080号車における死者が約75%を占めます)
幸い1080号車の乗客に列車関係者の方がおり、内側からドアを開けて乗客の退避が開始されました。
②指令員の過失
前述の通り、犯人が火をつけた列車1079号車が中央路駅に到着して運転士が指令員に報告。
不十分な報告であったため、指令員は後続列車に「中央路駅で火災発生、注意して向かうこと」とアナウンスし、停車や通過指示を出しませんでした。
その原因は、早急に監視カメラで規模や現場現状を把握しなかったことです。
運転士からの報告から20秒後には監視カメラが火で焼けてしまい、もう把握のしようがなくなってしまいました。
もしも報告を受けてすぐに監視カメラを見ていれば事態の深刻さに気づけたはず。
結果としては192名が亡くなり(そのうち6名は身元不明)、151名が怪我。
運転士や指令員の過失も重なり、未曾有の大惨事となってしまいました。
そもそも、当時の大邱地下鉄公社のマニュアルにあたる『総合安全防災管理計画書』には以下のように記されていました。
「火災発生時、侵入する列車は停車せずに通過させ、後続列車は運行を中止させねばならない」
ニュースや記事でも、主には「人為的なミスで被害が広がった」という論調です。
③防炎機能のない列車の内装
現場検証の結果、列車の内装に使用されていた素材は一部は燃えやすく、一部は有毒ガスを発生させるものでした。
消防の観点では全くと言っていいほど不適切な素材。
そのため簡単に燃え広がり、膨大な量の有毒ガスが発生。多くの命が奪われました。
④機能しない防災システム
そして列車の防災システムも不備が指摘されました。
- 停電時の非常電気供給
- 自動ドア自動開
- 排気設備
- 退避勧告アナウンス
この内どれかでも作動していれば、被害者は減らせたかもしれません。
事件のその後
このような無差別テロのような犯行と、人為的なミスと構造的な欠陥。
当時の韓国社会に大きな衝撃を与えました。
犯人への判決とその後
犯人は第一審では死刑が宣告されましたが、第二審では無期懲役に。
しかし2004年8月30日に刑務所内で死亡。
脳卒中の後遺症がきっかけの呼吸困難でした。
列車運行の当事者達
1079号車の運転士は初動措置を怠ったとして禁錮4年。
1080号車の運転士は列車のドアを閉めて多数の死傷者を出したとして禁錮5年。
指令員は禁錮1年6ヶ月〜3年。
施設管理者や役員は直接の責任がないとして執行猶予の判決が下されました。
列車内部の素材は燃えにくい材質に
各社の地下鉄が座席に難燃材のシートを被せるなど、燃え広がりにくい&燃えても有毒ガスを発生させにくい素材を使用するようになりました。
『内装には難燃材を使用する』というのは事件前から原則でしたが、コストカットが最優先されていたため…遵守していた列車は一つもありませんでした。
乗客への注意喚起
列車内のディスプレイに“火災発生時の避難方法”などが定期的に流されたり、“非常時のドアの開け方”の説明書きが以前より大きくなるなど、緊急時を想定した改善が行われています。
救助にあたった消防士のキム・ミョンべさん
一番最初に火災現場に降りて行った消防士のキム・ミョンべさん。
当時の悲惨さを語っています(オール韓国語)。
「階段に人がたくさん倒れていて地獄絵図だった」と言い、
今でも当時のトラウマがあり、今でも地下鉄に乗れないとのこと。
それでも彼に救われた人達はたくさんいて…消防士さんというのは、本当に偉大な職業だなと思います。
亡くなられた方々へ、哀悼の意を表します。
そして今も身体的、精神的な後遺症に苦しむ方がたくさんいらっしゃいます。
事件から約20年が経とうとしていますが、決して風化させてはいけない事件だと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか。
映画自体はコメディタッチで、主人公チョルスは“地下鉄火災で多くの人命を救った英雄”として描かれています。
私も調べてみて、作品からは想像がつかないほどの規模の惨事で心が苦しくなりました。
そんな中で命をかけて救出にあたった消防士の方々への敬意を、製作陣が『がんばれ!チョルス』という作品に込めたんだなと感じます。
当ブログでは他にも実話ベースの映画を紹介した記事を紹介しています。
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ぜひご覧ください!
最後までご覧いただきありがとうございました。
■参考記事
・中央日報2013年2月18記事『대구지하철참사 기관사, 5년 복역 뒤 출소해』
・イートゥデイ2020年11月11日記事『대구지하철 참사 방화범 범행동기부터 최후, 사형→무기징역』
・YouTube2016年2月18日『[그때 그 뉴스] 대구지하철 방화참사』
・NAVER NEWS 2003年2月19日記事『[대구지하철참사]사고역 불길 보고도 왜 멈췄나』